今回は、薄毛治療を専門とする医師の立場から、プロペシア(フィナステリド)の「用法・用量」を守ることが、なぜ治療において絶対不可欠なのか、その医学的根拠について解説します。「私たちが患者様にプロペシアを処方する際、必ず『1日1回1錠、毎日決まった時間に飲んでください』と、繰り返しお伝えします。これは、単なる決まり文句ではなく、薬の血中濃度と効果の持続性という、薬理学的な観点から見て、最も合理的で重要な指示なのです」と医師は語ります。プロペシアの有効成分であるフィナステリドは、体内に吸収された後、約24時間かけてゆっくりと代謝・排出されていきます。つまり、毎日1回服用することで、AGAの原因物質であるDHTの生成を抑制する効果が、24時間ほぼ一定に保たれるように設計されているのです。「もし、飲み忘れたり、飲む時間が日によって大きくずれたりすると、血中の薬物濃度が効果的なレベルを下回る時間帯ができてしまいます。その隙に、DHTは再び生成され、毛根への攻撃を再開してしまう。これでは、治療効果が安定しません」また、自己判断で服用量を増やすことの危険性についても、医師は警鐘を鳴らします。「臨床試験の結果、フィナステリドは1日1mgの服用で、DHTを抑制する効果が十分に得られることが証明されています。それ以上の量を服用しても、効果が劇的に高まるというデータはなく、むしろ副作用の発現頻度を高めるだけです。特に、性欲減退や勃起機能不全(ED)といった男性機能に関する副作用や、肝機能への影響も、用量が増えればリスクは高まります。私たちは、効果と安全性のバランスが最適となる『治療域』を見極めて処方しているのです」AGA治療は、患者さんと医師との信頼関係に基づく、二人三脚の長い旅です。医師が示す用法・用量は、その旅を安全かつ確実に進むための、最も信頼できる「地図」であり「コンパス」です。その指示を正しく守り、何か不安なことがあればすぐに相談すること。それこそが、患者さん自身ができる、最も重要な治療への参加なのです。