僕が、震える手で初めてプロペシアの錠剤を口にしたのは、半年前のことだった。鏡を見るたびに後退していく生え際に、言いようのない恐怖と焦りを感じ、藁にもすがる思いでクリニックの門を叩いたのだ。「毎日、寝る前に飲む」。そう決めて、僕の新しい習慣は始まった。最初の1ヶ月は、正直、不安しかなかった。目に見える変化は全くなく、むしろ、シャワーを浴びるたびに抜け毛が増えているような気さえした。これが、医師から説明を受けていた「初期脱毛」という現象なのだろうか。頭では理解していても、心が追いつかない。「本当に効いているのか?」という疑念が、何度も頭をよぎった。それでも、僕は歯を食いしばって飲み続けた。ここでやめたら、何も変わらない。そう自分に言い聞かせた。変化の兆しが見え始めたのは、3ヶ月が経った頃だった。シャワー後の排水溝に溜まる髪の毛の量が、明らかに減っていることに気づいたのだ。それは、ほんのわずかな変化だったかもしれない。でも、僕にとっては、暗闇の中に差し込んだ一筋の光だった。そして、服用開始から半年が経った今日。僕は、鏡の前で自分の髪をかき上げ、思わず息をのんだ。M字部分の、以前は地肌が透けて見えていた場所に、短くても黒々とした、力強い産毛が無数に生えている。細く、猫っ毛のようだった髪全体にも、ハリとコシが生まれ、スタイリングがしやすくなった。もちろん、フサフサになったわけではない。でも、薄毛の進行が止まり、確実に「前進」しているという手応えは、僕に失いかけていた自信を取り戻させてくれた。プロペシアを飲むという行為は、僕にとって、単なる薄毛対策ではなかった。それは、自分の悩みから逃げず、主体的に行動するという、自分自身との約束だった。この半年間、僕は髪だけでなく、自分の心も育てていたのかもしれない。
プロペシアを飲み始めて半年で僕の体に起きたこと